話すように歌う?

SLS:話すように歌う


SLS(Speech Level Singing)。
アメリカのボイストレーナー、セス・リッグス氏考案の発声メソッドです。
知名度の高いメソッドなので、ボイトレサイトやYoutubeなんかで見聞きする機会は多いと思います。
日本のSLS系だと桜田ヒロキさんが有名だと思います。



Speech Level Singingはベルカント唱法を基にしているらしいです。

えっ? どこらへんがベルカント?

って思った人は私と同じで耳が悪いのかもしれません。
喉仏を「話す」位置で固定して、脱力を強く意識するという感じなのでしょうか。

話すように歌う

これは外国人にだけ通用する理屈というか……。
多くの日本人にはあまり馴染まないような気がします。

基本的に日本語は喉締め言語です。声帯を圧し潰して、口先で言葉を発します。
大部分の日本人が話すように歌ったら、低音はボソボソの喉声で高音は喉締めの奇声になるはずです。
メソッドを頑張って喉仏を動かさないようにすると、おそらくは上記の動画みたいになるのではないでしょうか。

日本語と英語。舌や口内の使い方。声の出所が浅いか深いか。
言語間のギャップがあるだけで、SLS理論に即した歌い方だと思うので、
桜田ヒロキさん自体は正しい発声法を選んでいるはずです。

なんとなく物足りなく感じてしまうのは、桜田さんと秦さんの声質の違い……だけではないような気がします。
何やら辛辣なコメントが多いですが、名トレーナーが名歌手である必要はありません。
外国人向けのメソッドを日本人が続けた成果として、彼の歌は良いサンプルだと思います。

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日本人の中では少数派ですが、SLS理論に適合するというか……。
話すように歌って、プロ歌手や外国人みたいに歌える人もいます。

外国人に発音を誉められる人
クラス委員が休んでいる日に号令を任される人
繁盛している飲食店で一発で注文が通る人

つまり喉が開けている人たちです。
決して「喉仏を動かさない人」ではありません。

いつまで経っても英会話が上達しない。
ほとんどの場合、講師が悪いのではありません。
普段の調子で喉を開けずに、小声でボソボソと喋っているからです。

SLS系列のスクールに通っても歌が上手くなった気がしない。
ほとんどの場合、教えているボイストレーナー自身もきちんと喉が開けていないからです。

セス・リッグス氏や外国人講師にとっては「喉は開けていて当たり前」という考えのはずです。
喉を開けない人間がいる。そんなところまで想像が及ばないのではないでしょうか。
先祖代々、彼らは喉を開いて会話しているので「話すように歌う」だけで歌声になるのです。

関連記事:「声帯を引く方向(喉を開く方向)

しかし鎖国国家、喉締め民族である我々日本人は違います。
喉を締めるのが伝統であり、ややもすると美徳でもあります。
シャイな国民性というか、心情的な問題もあるのかもしれません。
殻の中に閉じこもるというか、思い切って声を出せないというか。

奥ゆかしい、慎み深い、上品、良く言えばこう。
自信がない、疑り深い、根暗、悪く言えばこうです。

そんな人たちが外国人のように会話ないし歌唱するためには「喉を締めない」という意識だけでは足りません。
外圧による開国ではなく、自分から打って出るという意識改革をしましょう。

しっかりと喉を開いて、思い切って声を出しましょう。
恥ずかしがらずに、外国人のようにプロ歌手のように。
それさえ心がけていれば、そのうち「話すように歌う」を体得できるはずです。


この記事を書いてから半年後。
私はようやく「話すように歌う」が実感ができました。

秦基博/鱗



確かに楽には歌えるのですが……。
なんか小さくまとまってるな、って印象です。
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