歌唱法解説:矢沢永吉/アリよさらば

世界のYAZAWAの発声


ペンキ屋のオジサンが熱狂的なファンでしたが、世代も趣味も違うので私にはピンと来ませんでした。
ガキには魅力がわからなかった、と言えるかもしれません。
発声をなんとなく学んだ上で矢沢さんの歌声をそれとなく検証してみると……。

ああ確かに、世界レベルの人なのです。

ライブの映像を見る限り、一般男性の怒鳴り声くらいの声量で歌い続けているように思えます。
とにかく声が強い。そして渋い。単純にカッコいい。
地声ミドル級の世界チャンピオンって感じです。

矢沢さんの曲をカラオケで歌う人は珍しくないと思います。
彼のモノマネでお金を稼いでいる芸人さんもチラホラいるようですが……。

アリよさらば歌ってー!

そんなリクエストには皆さん「えっ」と困惑してしまうのではないでしょうか。
細かい癖だけをコピーして満足している人にとってこの曲は鬼門だと思います。
動画を見たところ山口智充さんがダントツで上手かったのですが、彼の実力でも歯が立たないかもしれません。

本人のように歌ってみれば30秒で気づくのですが、なんといっても極太のhiA(A4)を連発しないといけないのです。
蚊の鳴くようなhiAではありません。地声にしか聴こえない極太のhiAです。
しかもギターソロ前にはhiB(B4)まで出てきます。これも地声感たっぷりなのでhiBに聴こえません。
この難曲をそれらしく歌うには矢沢さんの歌いまわしや癖ではなく、根本の発声法からコピーしないと無理だと思います。
つまり矢沢さんと似たような声の比率……地声にしか聴こえないミドルボイスで歌い上げないといけないのです。

矢沢永吉さんみたいに歌うには


矢沢さんはロックスター中のロックスターです。
喉なんか壊してナンボという超絶ロック思考の持ち主みたいです。
彼独自のボイトレ法とはスタジオでひたすら歌い続けることらしいです。
怒鳴り声のような大声量で四十年以上も……。

矢沢さんだからそれで問題ないのです。
そういう星の下に生まれて来た人だと思います。

ロックの神様に選ばれたロックスター。
本気でそんな人のように歌いたいのなら「くだらないモノマネ」を封印しましょう。
ロックの魂は精神論であり根性論です。偽者や半端者はお呼びではありません。
誰かの真似をしようとする時点で、矢沢さんのような魅力のある声は出せなくなるはずです。

あなたオリジナルの声で勝負してください。
それが少しでも矢沢さんに近づく方法だと思います。
……などと的外れな講釈はここらへんにしておいて。

矢沢さんの声質はおそらく、若い頃(?)に無茶を重ねて何度か喉を潰して……って感じだと思います。
防衛本能が働いているか声帯が微妙に劣化しているかで、呼気を強めても声門閉鎖がぴっちりとは閉じないのではないでしょうか。

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矢沢さんに限った話ではないのですが、ハスキー系の歌手の多くはその「隙間」が絶妙なのです。
声門が地声(喉声)ほど閉じないがために、力いっぱい張り上げても隙間の分だけ声が絶妙に軽くなるのです。
そして軽くなった分だけ高音が出易くなります。

地声のつもりで歌っても呼気に支えられたミックスボイスに、
チェストボイスをそのまま持ち上げれば太めのミドルボイスに……といった具合で。

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まあ自覚がないという点では天然ミックスボイスとも言えますかね。
とにかく「アリよさらば」で出している矢沢さんの高音はミドルボイスだと思います。

A.矢沢永吉/アリよさらば(チェスト張り上げ)



こんな感じで歌えている人は、そのまま歌い続けて喉を劣化させれば良い感じに隙間が開くかもしれません。

【成功例】

B.矢沢永吉/アリよさらば(地声ミドル)



【失敗例】

C.矢沢永吉/アリよさらば(閉鎖不全)



劣化した声帯は元には戻りません。
万が一にも失敗したくない人は、発声を基礎から見直すことをオススメします。

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