正しいチェストボイスへの道

胸に響くからチェストボイス。頭に響くからヘッドボイス。
ヘッドボイスは生まれて直ぐに習得しているはずです。
出せないのではなく、出し方を忘れているだけかもしれません。

しかしチェストボイスはどうでしょうか。
身体の成長に伴い喉仏が発達する。はっきりと声が低く太くなる。
男性ホルモンに由来する男性特有の変化です。

自覚できる「声変わり」はありましたか?
あなたの地声はきちんと「男性の声」になっていますか?

ミックスボイスのみならず、歌唱力全体に大きな影響を及ぼすチェストボイスの性質。
正しいチェストボイスと喉締めチェストボイス。
経験値が入っている状態か、否か。

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現時点では正しいチェストボイスが出せていないとして……。
喉締め換声点(mid2D)以下の発声法が、男性的であるか女性的であるか。
ここに注目することにより、ある程度の方向性が見えてきます。

男性的……声帯の引き方が前メイン。チェストボイスの基本通りに「胸を」響かせている。
女性的……声帯の引き方が後メイン。音域が下がった結果として「胸も」響いている。

声帯の使い方が女性的だとチェスト音域をより脱力して柔らかく歌えます。
ですが、男性平均程度の声帯サイズだと高音突入時の「声帯の引き代」に問題が出てきます。
チェスト音域から後ろ側(裏声系)の関与が強いと、ミドル音域では自然と前側に引くようになると思います。

声帯が小さい人や声区によって喉のフォームを変えられる人であれば特に問題はないのですが。
普通の人が「無意識に」そういう引き方を選んでいると、高音になるほど前(主に喉仏)を強く意識することになるので喉締めやハイラリンクスの誘因となる可能性があります。

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その結果「mid2D」付近から声は細くなり「mid2G」付近からは「ファルセット」か「キモ裏声」になります。
中低音域はそこそこ歌えているのに高音がさっぱりな人、たまにいますよね。
ありがちなパターンは「地声が強すぎる」と思い込んで、いきなり裏声練習なんかを始めてしまいます。

逆です。チェスト音域を柔らかく「しか」歌えない人は基本的に地声が弱いのです。
地声が弱いから声量が乏しい。声量がないからマイクが近い。
マイクが近いから自分の弱点に気が付かないのです。

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チェスト音域を上手に歌うのが目的なら、それだけで間違いとはいえません。
チェスト筋群・神経を鍛えるのが目的なら、その状態だと酷く効率が悪いです。
パワフルなハイトーンを出したいのならば、それこそが間違いだと断言できます。

『自らを演出する乙女の会/Girlish Lover』

上の曲を検索して、冒頭のフレーズをオクターブ下で歌ってみてください。
最高音は「mid2D」です。使っている音域は1オクターブくらいだと思います。

普通の男性であれば高いも低いもないはずです。強いと弱いがあるだけです。
自分の声を聴いて「喧嘩が弱そう」と感じたら、脱力はあまり気にしないでください。
チェストボイスが「ガーリッシュ」な人は、中低音域での緊張が足りていない可能性があります。

前! 前! 前!
下! 下! 下!
フォルテ! フォルテ! フォルテ!

喉がある程度開けているのなら、意識はそれだけでオッケーです。
いつもより下手でも、まともに歌えなくても気にしないでください。
チェスト(地声系筋群)に刺激が入っていればオールオッケーです。

さあ、喉を開いて!
気合を入れて!

女性的なチェストボイス



全員やり直し!

笑わない!
顎を上げない!
目を閉じない!

男性的なチェストボイス



よし!
全員合格!



声質や歌唱力ではなく、声がどこで響いているか(響きの方向)に注目してください。
ですが「女性的」の後ろ二人みたいなタイプは「あえてやっている」可能性が高いです。
声帯の引き方、みたいなオカルト要素(なんですって?)は凡才だからこそ気にする必要があります。
天才や秀才レベルに歌が上手い人にとっては、自然にやっている「歌唱表現」の一つでしかありません。

ちなみに地声が強すぎるのは「男性的」の三人目だけです。
もし彼が「あえてやっていない」のだとしたら……いいえ、そんなことはあり得ません。
安心してください。どれだけ地声を鍛えようと彼のようにはなりません。
彼のように「しか」歌えない人間は、現実には存在しないからです。

A.高橋ひろ/アンバランスなKissをして



B.高橋ひろ/アンバランスなKissをして



どっちがどっちでしょう?
どっちもどっちですかね?

女性的に歌った方が上手く聴こえる。
無意識にその響きをその歌い方を真似してしまう。

でも能力も経験も足りていないから、
女性曲をオクターブ下で「しか」歌えない。
何年練習しても変わらない。喉締めはむしろ悪化する……。

歌が上手くならないのは、
歌が上手い人の真似をして、
歌を上手く歌おうとしているから。

歩く前に起き上がる。走る前に歩き出す。何事にも正しい順序があります。
飛び込み前転もできない人が、後方伸身宙返りに挑戦するべきではありません。
つまりは「十年早いんだよ」ってことを十年続けているのです。
中途半端に耳が良い、って実は怖いことだったりします。

馬渡松子/微笑みの爆弾



さあ、どっちでしょう?
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