発声改善の過程(と罠)

発声改善……悪い発声を改善すること。

便宜上「改善」という言葉を使っていますが、
厳密に考えると発声にはあまり馴染まない言葉かもしれません。

これは極端な例(実はそんなに極端じゃない)ですが、

A.久保田利伸/LA・LA・LA LOVE SONG(現実)



ガキ声寄りの喉声。
これが厳しめの現実だとして、

B.久保田利伸/LA・LA・LA LOVE SONG(理想)



ややヘッドボイス寄りのミックスボイス。
これをとりあえずの理想とすると……。

Aの状態のままひたすら何万時間練習しても、
Bにはならない、ってなんとなく想像できると思います。

努力の方向が間違ってるって意味ではないです。
たとえ正しい練習を選んだとしても、AがBに変わることは「あってはならない」のです。

そもそもAとBは発声法が全然違います。
共通点は「前上が強い」ってことくらいです。
Aが改善されてBになるなら、私は「A」の発声法が使えないはずです。

AとB

どちらも一つの発声法。
どちらが良いも悪いもない。

A→B
B→A

これは本来あり得ない、ということです。
発声は改善するものでも改悪するものでもない。
発声バランスや喉の状態は「現代音楽的な意味合い」だと良くも悪くもなりますけどね。

A+B

私が使っている「発声改善」は「選択肢の追加」を意味します。
新しい感覚や発声概念の発見・習得・習熟です。

下手な歌い方ができなくなる、というのも発声的には不自由な状態だと言えます。
度々書いているように「ファルセットが出せなくなる」みたいなのは危険な兆候である可能性が高いのです。

関連記事:「さくら(独唱)歌える?

ちなみに「下手に歌ってみて」とリクエストされたときに、
音程やリズムをわざと外す人の発声感覚は、あまり参考にしない方がいいです。

そういう人は喉声とミックスボイスの区別ができなくなっている……。
本人の意識としては本当に「改善してるタイプ」なので、
歌ウマ風になるまでに選択肢(発声の引き出し)や「別の可能性」をどんどん失っていきます。
最終到達地点は……もしかすると、ちょっと残念な感じになっているかもです。



ではAとBが別物だと理解した上で、
AがBの発声手段を手に入れるためには……。
何が足りないのか。どこから始めるべきなのか。

一概には言えないのですが、
読んでいる人もだいたい想像つくとは思います。

発声の基礎を固める。

下側(前下・後下)に経験値が入るような「発声法」を発見・習得・習熟させる、です。

下側の使い方を覚えなければならないのだから、
当分下を向いていないと見つかるものも見つかりません。
最終的にはBを目指すとしても、そのためのお手本がBではマズイのです。

C.久保田利伸/LA・LA・LA LOVE SONG(前下強め)



D.久保田利伸/LA・LA・LA LOVE SONG(後下強め)



二つの違いを聴き分けられなくても、
自分の基礎固めの段階で「前下」と「後下」の感覚が確かならば、
C方向とD方向にしっかりと歌い分けられていれば何も問題はありません。

多くのケースでは【耳は後から】追いつきますので。

CとDの歌い方を忠実に守っていれば、そのうちに【声が重い】という不具合が出てきます。
これは不具合ではありますが、発声基礎の習熟を意味します。

声が重い、の本当の意味を体感する。
その段階に到達してようやくBをお手本にすることができるのです。

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そして、不幸にして、
基礎固めの期間中に……。

CとDを混同してしまったり、
CとDのいずれか、または両方が、

E.久保田利伸/LA・LA・LA LOVE SONG(後上強め)



いつの間にかコレと置き換わってしまったり……。

実際はここまで単純ではありませんが、
こういうのが【よくある罠】です。

高音が楽になった。
声が響くようになった。
もしかして……発声が改善してる?

そのまま進んでいくと【声が重い】という不具合を経ずに、
Aの状態からマシな感じに【改善】しちゃいます。

発声現象としては微妙に違うのですが、
徐々に改善しているのと同じような結果になります。
そこから先の選択肢は「歌ウマ風に歌う」しかない。

F.久保田利伸/LA・LA・LA LOVE SONG(上級喉声ミックスボイス)



ここまで来ちゃうと、もう【下】なんて見ない。
今よりも上達することしか考えられない。だからこそ【終了】なんです。

多くのケースでは【耳は後から】追いつきますので。

Bとの違いをなんとなく察しても「好みの違い」で納得したり(確かにそうだけど)、
発声基礎力の差を「声帯の固体差」や「個性」だと思い込んでしまうのです。

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